第18回  2016年3月1日    東京工芸大学名誉教授 加藤智見

【連載・世界の三大宗教を学ぶ (7)世界の三大宗教を比較する】

 

 今回は、今まで学んできました三大宗教を、それぞれの⑴開祖、⑵教え、⑶信仰対象、⑷信仰の特徴を軸にして比較してみたいと思います。

(1)開祖
[仏教]
釈迦(前463~383、566~486など諸説)
王シュッドーダナと妃マーヤーの間に生誕。29歳で出家。修行の後、菩提樹のもとで瞑想中に真理を悟 る。その後、各地で説法。80歳で病没。

 

[キリスト教]

イエス(西紀初年前後~30頃)
処女マリアが聖霊によって身籠り生む。30歳頃、洗礼を受ける。聖霊が降りてきたことを感じ、伝道を開始。33歳頃、捕らえられ磔刑に。三日後に復活。

 

[イスラム教]
ムハンマド(後570頃~632)
メッカのハーシム家に生誕。40歳頃、アッラーの啓示を受け宣教を開始。批判・攻撃にさらされる。622年メディナに逃れる。630年、メッカを征服。2年後病死。

 

●釈迦とムハンマドは人間の子として生誕したが、イエスは神の子として生

 誕したという。釈迦は自ら瞑想し真理を見出したが、イエスとムハンマド

 は啓示によって真理を得た点に特徴。また釈迦とムハンマドは自然な死に

 方であるが、イエスは死後、復活した点に特徴



⑵教え
[仏教]
①縁起
どんなものも縁により起り、単独に成立するものはない。
②四諦・八正道(したい・はっしょうどう)
四諦とは四つの真理で、苦諦(人間は苦に囲まれている)・集諦(じったい、苦の原因は欲望にある)・滅諦(欲望を滅すれば苦も滅することができる)・道諦(苦を滅するには八つの道がある)。八つの 道とは、正見・正思・正語・正業(しょうごう)・正命(しょうみょう)・正精進・正念・正定(しょうじょう)のこと。これを実践すれば苦から解放される。

 

[キリスト教]
①贖罪
イエスは、すべての人間の罪を背負って十字架上で亡くなった。神ヤハウェはイエスを復活させ、天に昇らせることでイエスの贖罪を受け入れた。このことを信じることによってのみ、人は罪から赦される。
②アガペー
「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」と『新約聖書』にあるように、無償の愛を教える。


[イスラム教]
①六信
1.アッラーのみを信じる。 2.アッラーの使者である天使を信じる。 3.啓示の書『コーラン』を信じる。 4.最後の預言者ムハンマドを信じる。 5.来世を信じる。 6.神の予定を信じる。
②五行(ごぎょう)
1.信仰告白(シャハーダ)。 2.礼拝(サラート)。 3.喜捨(ザカート)。 4.断食  (サウム)。 5.巡礼(ハッジ)。 イスラム教では、信仰(六信)と同等に行(五行)も 重んじられる。


●仏教は釈迦によって理論的に思索された真理を信じ、真理と一体になる実

 践が重視され、キリスト教では世界の創造者の意志に背いて犯した罪を贖

 罪を通して気づきイエスを信じること、イスラム教では神を徹底的に信じ、 同時に善行をなすことが重視されることが特徴。



⑶信仰対象
[仏教]
→仏(ブッダ)
仏教の仏は、「成仏」といわれるように、人間が成るもの。「一切衆生悉有仏性」という言葉があるように、あらゆるものはすべて仏になる本性を宿す。釈迦も仏になった一人。仏の語源「仏陀(ブッダ)」(Buddha) には、真理にめざめた人(覚者)を意味する普通名詞と、歴史上存在した釈迦を指す固有名詞との二つの意味がある。その境地に至った存在すべてが仏。このため仏は多く、諸仏といわれる。


[キリスト教]
→ヤハウェ
キリスト教の神は、父なる神である。この神は万物を創造し、恵みを与え、守り、そして最後まで導く存在。万物の中でも、人間に対しては特別に祝福し、たとえ神に背反して罪を犯しても見捨てることはせず、この人間を救うためにあらゆることをするという。また神の子としてのイエスを信仰し、カトリックではイエスの母マリアも尊崇する。


[イスラム教]
→アッラー
イスラム教の信仰対象は唯一なる神アッラーのみ。アッラーは、『コーラン』に「これぞ神にして唯一者、神にして永遠なる者。生まず、生まれず、一人として並ぶ者はない」といわれるように、唯一にして絶対の神。あらゆるものを超越した神であり、何かから生まれたという存在でもないし、何かを生むというような存在でもない。したがってキリスト教徒がイエスを神の子とすることは認めない。


●仏教の崇拝対象の仏とキリスト教・イスラム教の崇拝対象の神とは、まっ

 たく違う。仏はあくまで人間が成るものであり、すでに成った仏を崇拝し

 信じ、その教えを学び、実践して自らも仏に成るのである。後者の神は人

 間を創造した存在であり、人間の成れるものではない。ただひたすら救い

 を願う存在である。
             


(4)信仰の特徴
[仏教]
→信解型
*疑いを除くために、よく聞き、理解し、納得して信じる信仰。
*信じることと理解することが表裏している信仰。
*教えによって執着を離れ、清らかになると得心して信じる信仰。


[キリスト教]
→契約型
*自分が神に心をかけられていると気づく感謝から生まれる信仰。
*自分の行為ではなく、神が引き起こしてくださると信じる信仰。
*神と人間の堅く強い絆、契約を基とするところに生まれる信仰。


[イスラム教]
→服従型
*徹底して神を畏れ、すがり、頼り切るところに生まれる信仰。
*ひたすら服従する態度の中に生まれてくる信仰。
*神を信じ、神の前で善行をすれば神が喜ばれると信じる信仰。

 

●仏教の信仰は、釈迦によって悟られた真理、考えぬかれて至られた静寂な

 境地を理解して信じる冷静な信仰。キリスト教の信仰は圧倒的に強力な神

 の人間への働きかけに感謝する信仰。イスラム教の信仰は神の強烈な働き

 かけに服従し、安心し、善行に励もうとする信仰。

 


 以上、世界の三大宗教について比較してみましたが、仏教はどこか哲学的な印象を受けます。またキリスト教とイスラム教は砂漠から生まれた宗教で、熱くはげしい印象を与えます。これらの特徴を理解し、世界の現状を考えていただければ、きっと参考になると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の開門時間は、

9:00~16:00です。

 

親鸞聖人御誕生850年および立教開宗800年を記念した前進座特別公演「花こぶし」の水戸公演が2月に行われます。

詳細は左端の「お知らせ」タブより「行事日程と工事予定」をご覧ください。

(2024.1.11)

⇒ご鑑賞、御礼申し上げます。

 

「除夜の鐘」をつきます。23:50~01:00頃。ご参拝ください。   (2023.12.31)

⇒ご参加・ご参拝ありがとうご

 ざいました。(2023.01.1)

 

2023年度の新米が入荷しました。今年の新米も昨年同様ローズドール賞(最優秀賞)を受賞した新品種「ゆうだい21」です。詳細は左端のタブ「庵田米の販売について」をご覧ください。    (2023.10.20)

 

筑波大学名誉教授(日本思想)伊藤益先生のご講義【第5回】     

「慈悲の思想」をUPしました。左端のタブ「internet市民大学」よりお入りください。      

         (2023.7.15)

 

「市民大学講座」7月16日開催します。ご講師は伊藤益先生です。詳細は左端のタブ「公開講座・Seminar のご案内」をご覧ください。4年ぶりの開催ですので、ご参加をお待ちしています。(2023.5.29)

⇒約70名の受講者の方のご参加を得て、質疑応答で40分の延長の後、無事に終了しました。35度にもなる酷暑の中、駅から往復3km を歩いて参加され方々もありました。皆様、ご参加ありがとうございました。そし て、お疲れさまでした。 

       (2023.7.18)        

 机に向かい静かに目を閉じると、想いは6年前に訪れたキエフ〔キーウ〕に飛ぶ。ホーチミン経由のベトナム航空でモスクワに着いた私は、その足で駅に向かい、翌日の夜行列車を予約したのだった。

 

 首都キエフは、ロシア正教会(今はウクライナ正教会)の建物が夕日に輝く美しい都市だった。十字架を抱えたキエフ大公ウラディミル1世がドニエプル川を見下ろし、独立広場にはウクライナ国旗とEU旗が記念塔を取り囲んでいた(大学の授業で配信した動画の一部をUPします)。

 

  モスクワからキエフまでは夜行で一晩、1時間ごとに寝台列車が出ている。乗車当日その場でキップも買える。「母がウクライナの出身なんだ」と話していた初老のロシア人男性。両国に親戚がいる人々も多い。その国に攻め込むとは…刻々と届く映像を見ていて涙が止まらない。


 事態を予想しなかったと話す識者も多い。フィンランド侵攻(1939)・ハンガリー事件(56)・チェコスロヴァキア事件(68)と繰り返された暴力。必ずキエフまで侵攻すると私は確信していた。なぜ事前に米軍やNATO軍を緊急展開させなかったのか。抑止力となったはずだ。腰の引けた指導者たちの宥和政策が、ヒトラーの勢力拡大を可能にしたことを思い出す。


 キエフではミンスク(ベラルーシの首都)行きの寝台列車の切符が買える。チェルノブイリの側を抜けた列車は、翌朝にはミンスクに着いた。そのベラルーシでは、一昨年にはルカシェンコ政権に対する激しい民主化要求デモが続いた。ロシアでも反戦デモが続いているようだ。ナショナリズムに染まらないロシア人の知性に、僅かな光明を見る思いがする。

      (2022.2.26)

《追伸》
  十数年前のロシア航空、隣に座ったチェコ人青年の言葉が思い出される。チェコ解体(1939)と「プラハの春」弾圧(68)を経験した彼らの言葉は重い。 
  Russia is more dangerous

  than Germany.


 自国の権益と安全保障を要求して一方的に他国に攻め込む姿勢は、満蒙特殊権益を死守しようとした80年前の日本と重なる。欧米諸国による圧迫やウクライナの性急な親欧姿勢が攻撃を誘発したとする言説も聞かれるが、それは米国による包囲網が日本を追い込み開戦に至らしめたとして、日本の侵略行為を矮小化しようとするのと同じである。        (2022.5.5)

 

 

 

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