第17回  2016年1月1日    東京工芸大学名誉教授 加藤智見

 【連載・世界の三大宗教を学ぶ (6)イスラム教の教えとその特徴】

 

 先回はイスラム教の開祖ムハンマドの生涯について学びましたので、今回は彼が説いた教えのうち、⑴神、⑵最後の審判について学び、イスラム教の特徴を考えてみます。

1    神
 まず神アッラーについてですが、この神は唯一にして絶対的な神として考えられています。『コーラン』には、「これぞ神にして唯一者、神にして永遠なる者。生まず、生まれず、一人として並ぶ者はない」(112章1~4)としるされています。
 あらゆるものを超越した神であり、並ぶものもありません。何かから生まれたという存在でもないし、何かを生むような存在でもありません。ですからキリスト教徒がイエスを神の子と呼ぶことは偽りの行為だというのです。イエスを神の子であるとしたことは、キリスト教がユダヤ教ともイスラム教とも根本的に違う点です。
 さらに『コーラン』には次のようにしるされています。「主は凝血から人間を造りたもうた……筆とるすべを教えたまい、人間に未知のことを教えたもうた……その帰るところは主のみもと」(96章2~8)。アッラーは創造主であるだけでなく、あらゆることを教える慈悲深い存在であり、神の前に人間の意志は介在する余地はありません。アッラーの前には人間は無のような存在なのです。これは砂漠で生まれた宗教の特徴なのかも知れません。人間誰しもが仏になる可能性つまり仏性(ぶっしょう)をもち、これを開発して仏に成る(成仏)といった仏教とはおよそ発想が違うのです。

 

2  最後の審判

 創造された人間が帰るところは神のみもとなのですが、この見方がまた非常にきびしい

ものです。「大地がはげしく振動し」「天が割れて」「らっばが吹き鳴らされる」終末の日、人々を裁くのはアッラーです。この日は、「人間には、力も救助者もない」(86章10)。「人がその兄弟から逃げる日、おのが母や、父や、妻や、息子から逃げる日、その日、おのおのは、各自のことで多忙をきわめる」(80章34~37)と述べられています。

 いざ最後の審判の日になると、兄弟、親、妻、息子も自分のことしか考えず、当てにならないというのです。人間の赤裸々な姿をきびしく見据えているのです。砂漠と言うギリギリの状況から生まれる人間観でもありましょう。したがって最後の審判にそなえ、はかないこの世の快楽におぼれることなく、「来世」の幸福を願わなければなりません。「この世の生活はただ娯楽遊戯にすぎない。来世こそは生命である」(29章64)と言われるのです。

 こうしてイスラム教の特徴は、第一に、アッラーが唯一絶対の神であり、創造から審判までを支配し、地縁血縁を超えたものになるところにあります。したがってアラブの特定の部族の神ではなく、世界宗教の特性をもつことになります。第二に、この世にあまり価値を置かず、来世に強い力点を置くことになり、第三には、近親者といえども審判の際には当てにならないと見ることによって、結局は自分しか当てにならない、それゆえ自分が神を信じ、正しい行ないをするほかない、という個人の信仰と行為が中心になるところにあります。この点では、キリスト教などと共通し、神道のような共同的な信仰形態とは異なります。

 次に、イスラム教の信仰と行為の問題に触れてみたいと思います。

 

3 六信五行
 マルティン・ルターが「信仰のみ」と言ったように、キリスト教ではおおむね行為よりも信仰に重点が置かれますが、イスラム教では、信仰だけではなく行為も重視されます。信仰は正しい行為によって裏打ちされねばならないというのです。信仰と行為の一体化が主張され、「六信五行」の実践が説かれます。
 まず六信とは、次のような六つの信仰を指します。
 ① アッラーのみを信じる。
 ② カブリエル、ミカエルなどの、神と人を結び、仲介する天使を信じる。
 ③ 啓示の書『コーラン』を信じる。『旧約聖書』の律法・詩篇、『新約聖書』の福

  音書なども啓典として認められています。
     最後の預言者ムハンマドを信じる。『旧約聖書』のモーセ、『新約聖書』のイエ

  スたちも預言者の先駆者とされています。
     来世を信じる。  最後の審判で義人は天国に入れられ、悪人は地獄に落とされる    と信じることです。
     神の予定を信じる。世界に起こるすべてのことは、アッラーの摂理によって定め

  られていると信じることです。

ミフラーブ
ミフラーブ

 次に、五行とは、イスラム教の信仰を支える五つの行為で、五柱とも言います。
 ① 信仰告白(シャハーダ)。

「アッラーのほかに神はなし。ムハンマドはアッラーの使徒なり」と唱える。礼拝のときやイスラム教に改宗する際に唱えます。
 ② 礼拝(サラート)。

アッラーへの服従と感謝の念を行為として表明する。義務としては夜明け・正午・午後・日没・夜半の一日五回。このほか自発的な礼拝が奨励されます。礼拝にあたってはモスクにある、聖地メッカのカーバ神殿の方角を示すアーチ型のミフラーブ(写真参照)に向かって、低頭や平伏をする定められた動作を行います。場所はモスク内とは限りませんが、金曜日正午の礼拝はモスクに集まって集団でおこなわれるのが原則です。
 ③    喜捨。

義務的な一種の宗教税としてのザカートと自発的なサダカがあり、貧者の救済や援助に用いられます。
 ④    断食(サウム)。

イスラム暦9月(ラマダーン月)の一カ月間、日の出から日没まで飲食を断ちます。日没後は許されます。
 ⑤    巡礼(ハッジ)。

イスラム暦12月8日から10日の3日間、決められた順序と方法によってメッカのカーバ神殿と聖地を訪れること。宗教的なエネルギーに触れ、連帯感を強めます。イスラム教徒にとって一生に一度は行うべき義務であり、憧れです。

 以上、イスラム教の教えとその特徴について学んできましたが、たとえば仏教などと比較すると、その特徴にかなり違いがあることに気づかされます。
 そこで最後に、今まで学んできました世界の三大宗教、つまり仏教、キリスト教、イスラム教を比較し、その異同について、次回、明らかにしてみたいと思います。ちょうど3月6日(日)には、スプリングセミナーがありますので、好都合かと思います。

現在の開門時間は、

9:00~16:00です。

 

親鸞聖人御誕生850年および立教開宗800年を記念した前進座特別公演「花こぶし」の水戸公演が2月に行われます。

詳細は左端の「お知らせ」タブより「行事日程と工事予定」をご覧ください。

(2024.1.11)

⇒ご鑑賞、御礼申し上げます。

 

「除夜の鐘」をつきます。23:50~01:00頃。ご参拝ください。   (2023.12.31)

⇒ご参加・ご参拝ありがとうご

 ざいました。(2023.01.1)

 

2023年度の新米が入荷しました。今年の新米も昨年同様ローズドール賞(最優秀賞)を受賞した新品種「ゆうだい21」です。詳細は左端のタブ「庵田米の販売について」をご覧ください。    (2023.10.20)

 

筑波大学名誉教授(日本思想)伊藤益先生のご講義【第5回】     

「慈悲の思想」をUPしました。左端のタブ「internet市民大学」よりお入りください。      

         (2023.7.15)

 

「市民大学講座」7月16日開催します。ご講師は伊藤益先生です。詳細は左端のタブ「公開講座・Seminar のご案内」をご覧ください。4年ぶりの開催ですので、ご参加をお待ちしています。(2023.5.29)

⇒約70名の受講者の方のご参加を得て、質疑応答で40分の延長の後、無事に終了しました。35度にもなる酷暑の中、駅から往復3km を歩いて参加され方々もありました。皆様、ご参加ありがとうございました。そし て、お疲れさまでした。 

       (2023.7.18)        

 机に向かい静かに目を閉じると、想いは6年前に訪れたキエフ〔キーウ〕に飛ぶ。ホーチミン経由のベトナム航空でモスクワに着いた私は、その足で駅に向かい、翌日の夜行列車を予約したのだった。

 

 首都キエフは、ロシア正教会(今はウクライナ正教会)の建物が夕日に輝く美しい都市だった。十字架を抱えたキエフ大公ウラディミル1世がドニエプル川を見下ろし、独立広場にはウクライナ国旗とEU旗が記念塔を取り囲んでいた(大学の授業で配信した動画の一部をUPします)。

 

  モスクワからキエフまでは夜行で一晩、1時間ごとに寝台列車が出ている。乗車当日その場でキップも買える。「母がウクライナの出身なんだ」と話していた初老のロシア人男性。両国に親戚がいる人々も多い。その国に攻め込むとは…刻々と届く映像を見ていて涙が止まらない。


 事態を予想しなかったと話す識者も多い。フィンランド侵攻(1939)・ハンガリー事件(56)・チェコスロヴァキア事件(68)と繰り返された暴力。必ずキエフまで侵攻すると私は確信していた。なぜ事前に米軍やNATO軍を緊急展開させなかったのか。抑止力となったはずだ。腰の引けた指導者たちの宥和政策が、ヒトラーの勢力拡大を可能にしたことを思い出す。


 キエフではミンスク(ベラルーシの首都)行きの寝台列車の切符が買える。チェルノブイリの側を抜けた列車は、翌朝にはミンスクに着いた。そのベラルーシでは、一昨年にはルカシェンコ政権に対する激しい民主化要求デモが続いた。ロシアでも反戦デモが続いているようだ。ナショナリズムに染まらないロシア人の知性に、僅かな光明を見る思いがする。

      (2022.2.26)

《追伸》
  十数年前のロシア航空、隣に座ったチェコ人青年の言葉が思い出される。チェコ解体(1939)と「プラハの春」弾圧(68)を経験した彼らの言葉は重い。 
  Russia is more dangerous

  than Germany.


 自国の権益と安全保障を要求して一方的に他国に攻め込む姿勢は、満蒙特殊権益を死守しようとした80年前の日本と重なる。欧米諸国による圧迫やウクライナの性急な親欧姿勢が攻撃を誘発したとする言説も聞かれるが、それは米国による包囲網が日本を追い込み開戦に至らしめたとして、日本の侵略行為を矮小化しようとするのと同じである。        (2022.5.5)

 

 

 

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