第3回 2013年9月1日   東京工芸大学名誉教授 加藤智見

【連載・親鸞と現代の諸問題(3)】
  ―現代の高齢者の悩みに、聖人はどう答えてくださるか―

 

 先回は、日本の高齢者の悩みについて聖人にたずねてみた。今回は壮年期の人々の悩みを分析し、これについて聖人にたずねてみたい。
 壮年期とは、一般に20~25歳頃から60~65歳頃までを指すとされ、幅が広いので、今回は深刻な孤独感に襲われ自殺者も多い50~60歳周辺の男性を取りあげ、社会における孤独感、家庭における孤独感、心身における孤独観、老いた両親との関係における孤独感の四点から、まず分析してみたい。
第一に、壮年期の彼らは、少し年上の猛烈社員たちとともに、会社のため脇目もふらず二十年、三十年働き続けてきた。「一社懸命」という言葉もあった。エコノミックアニマルなどと諸外国から悪口を言われながらも、その世界の国々を援助できるような豊な国を作り、会社発展のために献身してきた。しかしバブルがはじけた頃から、日本の会社は大きく変化しはじめた。会社に骨を埋めるというような社会ではなくなった。日本の企業は若手管理職が過剰であると判断し、いつリストラや配置転換、出向、希望退職のターゲットにされるかもしれない時代となった。挙句のはてには「首切りマニュアル」、「追い出し部屋」などという悲しい言葉が作られ、実際に行われるようになった。真面目に働いてさえいれば、年功序列で……などと希望をもつこともできなくなった。こうしてストレスをため出社できなくなったり、抑鬱症などと診断され、孤独感に陥る人も多くなった。
 第二に彼らは、以前であれば会社で辛くても、家に帰れば一応家庭の主人として存在感があった。しかし今では必ずしも家庭の中心人物ではなくなった。早く帰れば、「もう帰ったの」と煙たがられる場合も多い。いざ転勤となれば、子どもの学校の都合でほとんどが単身赴任となる。父親中心から子ども中心に家庭がまわるようになったのだ。「父さん元気で留守がよい」などという言葉が平気で使われる。さらに最近、「家庭内ランキング」という名のもとに、「母・子・犬・猫・父・金魚」とも言われる。かりに冗談であっても、情けない言葉である。家庭においても彼らは孤独感を感じざるを得なくなった。
 第三に、この年齢になるとそろそろ身体的老化がはじまる時期に入る。健康診断を受ければどこかに欠陥が見つかる時期だ。しかしまだ子どもたちを養わねばならない立場上、そのことをなかなか家族に言いだせない。胸にしまっていると、これが身心のストレスとなり、孤独感にもさいなまれるようになる。
 第四に彼らの親は、高齢化社会になったため、まだ存命の場合が多くなった。しかし命はあっても、介護が必要になったり、場合によっては認知症が進んでいるような場合もある。心理的にも経済的にも負担を背負わねばならないケースが増えている。今そうでなくても、やがてそうなるかもしれないという不安感・孤独感がのしかかってくる年代である。
 五十歳代といえば、一番分別のある世代でもあるはずだが、このような孤独感が幾重にも重なって襲ってきたとき、発作的に死を選んでしまう場合が少なくないのである。
 ではこのような孤独感によって疲れ切った五十代の男性が、稲田の草庵におられる聖人をたずねた場合、聖人はどのようにアドバイスをくださるのだろうか。あくまで私の推測ではあるが、あたたかく迎え入れ、次のように話してくださるのではないかと思う。


 「会社で疎外され、家族から軽んじられ、自分の体の衰えに気づいた上に、ご両親の面倒まで見なければならないと、孤独な胸中で悩んでおられるそのお気持ち、よくわかります。さぞかし辛いことだと思います。
 しかしよく考えてみましょう。世の中はあなた一人のためにまわっているわけではありません。人間は皆、この事実のために悩んでいるのです。私はいつも言うのですが、人間には三毒という煩悩があり、この三毒に支配され、苦しんでいるのです。三毒とは貪・瞋・痴のことです。まず人間誰しも、自分こそ幸せになりたい(貪)と思うのですが、そうはいきません。すると無性に腹が立ち(瞋)、それを押さえるとストレスがたまり、うまくいかない理由を社会や他人のせいにして恨んだり憎んだり妬んだりして愚痴を言い続ける(痴)。そして次第に悪循環の世界に入りこんで迷いを深めていくのです。
 そこで少し落ち着いて考えてみましょう。第一の孤独感ですが、会社には会社の目的があります。昔に比べると会社同士の競争ははるかに激化しています。会社はあなたのためにだけあるわけではありません。会社に満足できなければ、日本の経済組織や会社の組織全体を変革しない限り、方法はありません。それができなければ下働きであっても愚痴は言えません。しかし会社に満足できなくても、人生は会社だけではありません。下働きをしながら、自分の人生観は変えられます。人生観を変え、その下働きを、むしろ奉仕と考え、もっと大きな世界で生きることができるのです。阿弥陀さまとともに生き、お念仏の世界に生きて他人の幸福を願う生き方があります。私も京都を追われ、罪人にされ、越後に流されました。ですからリストラや出向の悩みも分かります。しかし今ここで、こうして多くの人々とともにお念仏の世界に生きており、貧しいながらも、とても幸せです。京都や奈良には出世して高僧になった人々もいますが、少しも羨ましくはありません。
 第二の家族の問題ですが、私は結婚し、妻も子どもたちもいます。だから言い合いも喧嘩もします。それぞれ人間ですから、それぞれの生き方があります。しかし皆阿弥陀さまを信じ、お念仏もうし、その点では堅い絆で結ばれています。仏さまの力で結んでいただいているのであって、私が結んでいるのではありません。だから家庭の中で中心になろうなどという気持ちもありませんし、孤独感も生まれません。仏さまが中心、あとは皆仲間です。
 第三の身体的な孤独感ですが、正直もうして私も気にはなります。しかし私のいのちはいただいたもの、言い換えれば私の中でいのちが生きてくださっているのですから、ありがたく大切にさせていただいております。寿命の長短は気にしないようにしています。それよりもお浄土に参れますよう、念仏もうし感謝の生活をするよう心がけています。
 最後に、第四のご両親のことですが、どうかご両親には仏さまを信じ、念仏もうされるようにおすすめください。かりに認知症などになられても、お念仏と「ありがとう」の言葉だけは記憶に残るよう、あなたと共に念仏もうす環境で包んであげてください。それがご両親をお浄土に導き、あなた自身を救う方法になるでしょう。
 いろいろとお話してきましたが、要するにあなたは少し「我(が)」をはり、頑張りすぎて悩んでおられるのです。「我」はしばらく仏さまに預けて、会社の人たちと一緒に、家族と一緒に、自分の体と一緒に、親と一緒に仏さまの前に立ち、心で念仏もうしながら共生していかれるよう意識を変革してみてください。まだまだ人生は長いのですから」

現在の開門時間は、

9:00~16:00です。

 

親鸞聖人御誕生850年および立教開宗800年を記念した前進座特別公演「花こぶし」の水戸公演が2月に行われます。

詳細は左端の「お知らせ」タブより「行事日程と工事予定」をご覧ください。

(2024.1.11)

⇒ご鑑賞、御礼申し上げます。

 

「除夜の鐘」をつきます。23:50~01:00頃。ご参拝ください。   (2023.12.31)

⇒ご参加・ご参拝ありがとうご

 ざいました。(2023.01.1)

 

2023年度の新米が入荷しました。今年の新米も昨年同様ローズドール賞(最優秀賞)を受賞した新品種「ゆうだい21」です。詳細は左端のタブ「庵田米の販売について」をご覧ください。    (2023.10.20)

 

筑波大学名誉教授(日本思想)伊藤益先生のご講義【第5回】     

「慈悲の思想」をUPしました。左端のタブ「internet市民大学」よりお入りください。      

         (2023.7.15)

 

「市民大学講座」7月16日開催します。ご講師は伊藤益先生です。詳細は左端のタブ「公開講座・Seminar のご案内」をご覧ください。4年ぶりの開催ですので、ご参加をお待ちしています。(2023.5.29)

⇒約70名の受講者の方のご参加を得て、質疑応答で40分の延長の後、無事に終了しました。35度にもなる酷暑の中、駅から往復3km を歩いて参加され方々もありました。皆様、ご参加ありがとうございました。そし て、お疲れさまでした。 

       (2023.7.18)        

 机に向かい静かに目を閉じると、想いは6年前に訪れたキエフ〔キーウ〕に飛ぶ。ホーチミン経由のベトナム航空でモスクワに着いた私は、その足で駅に向かい、翌日の夜行列車を予約したのだった。

 

 首都キエフは、ロシア正教会(今はウクライナ正教会)の建物が夕日に輝く美しい都市だった。十字架を抱えたキエフ大公ウラディミル1世がドニエプル川を見下ろし、独立広場にはウクライナ国旗とEU旗が記念塔を取り囲んでいた(大学の授業で配信した動画の一部をUPします)。

 

  モスクワからキエフまでは夜行で一晩、1時間ごとに寝台列車が出ている。乗車当日その場でキップも買える。「母がウクライナの出身なんだ」と話していた初老のロシア人男性。両国に親戚がいる人々も多い。その国に攻め込むとは…刻々と届く映像を見ていて涙が止まらない。


 事態を予想しなかったと話す識者も多い。フィンランド侵攻(1939)・ハンガリー事件(56)・チェコスロヴァキア事件(68)と繰り返された暴力。必ずキエフまで侵攻すると私は確信していた。なぜ事前に米軍やNATO軍を緊急展開させなかったのか。抑止力となったはずだ。腰の引けた指導者たちの宥和政策が、ヒトラーの勢力拡大を可能にしたことを思い出す。


 キエフではミンスク(ベラルーシの首都)行きの寝台列車の切符が買える。チェルノブイリの側を抜けた列車は、翌朝にはミンスクに着いた。そのベラルーシでは、一昨年にはルカシェンコ政権に対する激しい民主化要求デモが続いた。ロシアでも反戦デモが続いているようだ。ナショナリズムに染まらないロシア人の知性に、僅かな光明を見る思いがする。

      (2022.2.26)

《追伸》
  十数年前のロシア航空、隣に座ったチェコ人青年の言葉が思い出される。チェコ解体(1939)と「プラハの春」弾圧(68)を経験した彼らの言葉は重い。 
  Russia is more dangerous

  than Germany.


 自国の権益と安全保障を要求して一方的に他国に攻め込む姿勢は、満蒙特殊権益を死守しようとした80年前の日本と重なる。欧米諸国による圧迫やウクライナの性急な親欧姿勢が攻撃を誘発したとする言説も聞かれるが、それは米国による包囲網が日本を追い込み開戦に至らしめたとして、日本の侵略行為を矮小化しようとするのと同じである。        (2022.5.5)

 

 

 

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