第2回 2013年7月1日    東京工芸大学名誉教授 加藤智見

【連載・親鸞と現代の諸問題(2)】
  ―現代の高齢者の悩みに、聖人はどう答えてくださるか―

 

 先回、私は現代の日本の高齢者の抱える悩みを分析してみた。その悩みの顕著な特色として、一人ひとりの心の中に深い孤独感が浸透していること、詳しくは、①死期を引き延ばされ、自然な死を迎えられない非人間的な状況に追いやられる孤独感、②家族や社会から見離され、単なるお荷物となって迷惑だけをかけていると感じる孤独感、③次々に変化していく時代的価値観についていけず、若い人々から避けられ、孤立していく孤独感、さらには④やがてやって来る死の意味がわからず、死後自分がどうなるかもわからない不安感から来る孤独感などについて指摘してみた。
 そこで今回は、このような悩みをもったわれわれが、稲田におられる親鸞聖人をたずねた場合、聖人はどのようにわれわれを導いてくださるかを考えてみたい。
 聖人は本来寡黙な人であった。稲田で書かれた『教行信証』を読めば、よくわかる。自分のこと、自分の主張は全体の5%ほどしか書かれず、ひたすら他人が書いた文を丹念に引用される。いわば聞き上手な人であった。人の話を真剣に聞く人だった。だから人がたずねても、一応信心や念仏を勧められるが、一方的に話し、それを押しつけるような人ではなかった。しかも聖人には、若い頃、当時いわれていた信心や念仏を信じられず、苦しまれた時期が長かったから、なかなか素直に信心や念仏を信じられない人の気持ちがよくわかったはずだ。まずはじっくり、訪れた人々の話を聞かれたことと思う。
 話を聞き終わると、「私もそういう悩みを持っていたからよくわかります。そこで一度自分というものをしっかりと見つめてみましょう。自分の偽らざる姿を見つめてこそ、救いというものに気づくのです」と語りかけられたことだろう。聖人ほど自己を省察した人はいなかったからだ。そして自分の赤裸々な姿を見つめさせながら、たとえば「三毒」の話などをし、次のように語られたであろう。
 「三毒とは、煩悩の中で最も根源的なものです。本来仏教は、煩悩を滅ぼし仏に成るのが理想ですが、この煩悩が滅ぼせない。私も比叡山で苦しみましたが、実は人間の悩みは自分の外から来るのではなく、この煩悩が自分を苦しめるのです。そこでこの煩悩の中で最も人を苦しめる三つの煩悩、つまり三毒について考えてみましょう。
 この三毒とは、貪(とん、貪欲のこと)、瞋(じん、瞋恚のこと)、痴(ち、愚痴のこと)の三つです。貪とは、何でも自分のものにしたい、自分に都合よくまわりが動いて欲しいという欲望、瞋とは、貪が満たされないと出てくる怒り、痴とは、怒るだけではおさまらず、愚痴をいい人を憎み怨み妬む心に襲われること。要するに、自分の欲望が満たされないと、怒ってそれを人のせいにして憎んだり怨んだりして愚痴がやまないのが人間の実態なのです。年をとればとるほど、これは消えることなく、いよいよ深まってきます。救われようのない姿になっていくのです。ところがそのような自分の姿を反省せず、自分の悩みの原因を他人や社会のせいにして責任転嫁するから、いよいよ皆に嫌われ、避けられ、孤独になってしまうのです。こうしてますます煩悩に縛られ、仏に成るなど到底できない人間になっていくのです。このような人間を救われがたい人間というのです。平成の日本にも、このような人が多いですね。
 しかし、こうして皆から見離されてしまった人をじっと見守り、その悩みを一緒に悩んでくださっている方が一人だけおられるのです。実は、この方こそが阿弥陀さまなのです。救われようのない人を何とかしようと考えてくださったただ一人の方なのです。
 では、どのように考えてくださったのでしょうか。
 三毒のような煩悩を滅ぼして仏に成るのが仏教なのですが、現実の世界を見れば、それはむずかしい。煩悩を滅ぼす能力も時間の余裕もないのが一般の人間です。そのような人々が仏に成るには、努力を重ねて仏になった私を信じ、私の名を呼んで常に私と共に生き、煩悩に支配されないようにするしかない、と考えてくださったのです。煩悩を滅ぼす修行はできなくても、阿弥陀さまを信じ、その名を呼ぶことだけはできるはずです。その名を呼ぶことが念仏するということです。ただむやみやたらと仏を信じ、念仏するというのではなく、このように自分を思いやってくださる阿弥陀さまの思いやりを深く噛みしめるときに自然に信じる心がおこってきますし、この思いやりに感謝の心がおこるとき、自然に阿弥陀さまありがとうという気持ちが生まれ、念仏が出てくるのです。だからわれわれの信心も念仏も、実は阿弥陀さまからいただいたものといわねばなりません。これが法然上人から私が教えていただいた信心と念仏なのです。
 さて、このことがわかれば、人間は決して孤独ではありません。世界中の人から見捨てられ、たった一人になってしまっても、いつ、どこでも、阿弥陀さまと一緒にいるのですし、法然上人、そして私もあなたとともにいるのです。あなたはこうして孤独になったからこそ、本当は孤独ではないということがわかつたのです。孤独になったことが救いの原因になったのです。煩悩や三毒を持ったままでよいのです。それらを持っていると、かえって救いのありがたさがわかるのです。高齢者だからといって、愚痴をこぼしていてはいけません。高齢になったからこそ、救いに気づかせていただいたのですから。
 だから、①たとえ認知症になっても、いつもお念仏だけは口から出るように、不断から念仏もうしておき、人から愛されるようにしておきましょう。それ以上取り越し苦労をせず、すべて阿弥陀さまにおまかせしましょう。 ②そして、将来一人になって、どんな施設や病院をタライ回しされようと、いつも阿弥陀さまが付き添ってくださっていると思い定めてください。私もあなたの心の中で付き添っています。③さらに価値観の激変で若い人々から避けられるようになったら、自分の今までの価値観に固執しないで、念仏をもうし、それによって柔らかくなった心で、若い人々の価値観を受け入れましょう。若い人々の価値観にも良い面があるのです。これを受け入れていくことが、ほかでもなく三毒に縛られなくなっていくことでもあります。④最後に、死も生と同様に意味があるのです。阿弥陀さまに導かれ、お浄土に参れるのです。そのお浄土に生まれ、煩悩から解放され、今度こそ本当に仏さまにしていただきましょう。死は恐いことのようですが、本当は深い希望への旅立ちでもあります。煩悩があるため、なかなかそう思えませんが、阿弥陀さまを信じ、お念仏もうしていると、自然にそのことがわかってくるのです。」
 聖人をたずねる人は、きっとこのようにいわれることだろう。これは私の推察ではありますが、現在の私の正直な気持ちでもあります。

現在の開門時間は、

9:00~16:00です。

 

親鸞聖人御誕生850年および立教開宗800年を記念した前進座特別公演「花こぶし」の水戸公演が2月に行われます。

詳細は左端の「お知らせ」タブより「行事日程と工事予定」をご覧ください。

(2024.1.11)

⇒ご鑑賞、御礼申し上げます。

 

「除夜の鐘」をつきます。23:50~01:00頃。ご参拝ください。   (2023.12.31)

⇒ご参加・ご参拝ありがとうご

 ざいました。(2023.01.1)

 

2023年度の新米が入荷しました。今年の新米も昨年同様ローズドール賞(最優秀賞)を受賞した新品種「ゆうだい21」です。詳細は左端のタブ「庵田米の販売について」をご覧ください。    (2023.10.20)

 

筑波大学名誉教授(日本思想)伊藤益先生のご講義【第5回】     

「慈悲の思想」をUPしました。左端のタブ「internet市民大学」よりお入りください。      

         (2023.7.15)

 

「市民大学講座」7月16日開催します。ご講師は伊藤益先生です。詳細は左端のタブ「公開講座・Seminar のご案内」をご覧ください。4年ぶりの開催ですので、ご参加をお待ちしています。(2023.5.29)

⇒約70名の受講者の方のご参加を得て、質疑応答で40分の延長の後、無事に終了しました。35度にもなる酷暑の中、駅から往復3km を歩いて参加され方々もありました。皆様、ご参加ありがとうございました。そし て、お疲れさまでした。 

       (2023.7.18)        

 机に向かい静かに目を閉じると、想いは6年前に訪れたキエフ〔キーウ〕に飛ぶ。ホーチミン経由のベトナム航空でモスクワに着いた私は、その足で駅に向かい、翌日の夜行列車を予約したのだった。

 

 首都キエフは、ロシア正教会(今はウクライナ正教会)の建物が夕日に輝く美しい都市だった。十字架を抱えたキエフ大公ウラディミル1世がドニエプル川を見下ろし、独立広場にはウクライナ国旗とEU旗が記念塔を取り囲んでいた(大学の授業で配信した動画の一部をUPします)。

 

  モスクワからキエフまでは夜行で一晩、1時間ごとに寝台列車が出ている。乗車当日その場でキップも買える。「母がウクライナの出身なんだ」と話していた初老のロシア人男性。両国に親戚がいる人々も多い。その国に攻め込むとは…刻々と届く映像を見ていて涙が止まらない。


 事態を予想しなかったと話す識者も多い。フィンランド侵攻(1939)・ハンガリー事件(56)・チェコスロヴァキア事件(68)と繰り返された暴力。必ずキエフまで侵攻すると私は確信していた。なぜ事前に米軍やNATO軍を緊急展開させなかったのか。抑止力となったはずだ。腰の引けた指導者たちの宥和政策が、ヒトラーの勢力拡大を可能にしたことを思い出す。


 キエフではミンスク(ベラルーシの首都)行きの寝台列車の切符が買える。チェルノブイリの側を抜けた列車は、翌朝にはミンスクに着いた。そのベラルーシでは、一昨年にはルカシェンコ政権に対する激しい民主化要求デモが続いた。ロシアでも反戦デモが続いているようだ。ナショナリズムに染まらないロシア人の知性に、僅かな光明を見る思いがする。

      (2022.2.26)

《追伸》
  十数年前のロシア航空、隣に座ったチェコ人青年の言葉が思い出される。チェコ解体(1939)と「プラハの春」弾圧(68)を経験した彼らの言葉は重い。 
  Russia is more dangerous

  than Germany.


 自国の権益と安全保障を要求して一方的に他国に攻め込む姿勢は、満蒙特殊権益を死守しようとした80年前の日本と重なる。欧米諸国による圧迫やウクライナの性急な親欧姿勢が攻撃を誘発したとする言説も聞かれるが、それは米国による包囲網が日本を追い込み開戦に至らしめたとして、日本の侵略行為を矮小化しようとするのと同じである。        (2022.5.5)

 

 

 

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